腹圧性尿失禁(Stress Urinary Incontinence: SUI)は、多くの女性が直面する膀胱の悩みのひとつですが、「どんな状態か」「原因は何か」「どのような対処法があるのか」については誤解も少なくありません。米国NYUランゴーン・ヘルス(ニューヨーク)の泌尿器科で女性骨盤医学・再建外科を専攻する医師、Meredith Wasserman(メリディス・ワッサーマン)先生が、SUIに関する基礎知識と向き合い方をわかりやすく解説しました。
腹圧性尿失禁(SUI)とは
- 米国では、女性の約50%が生涯のどこかで尿失禁を経験し、そのうち約50%が腹圧性尿失禁だと説明されています。
- 咳、笑い、くしゃみ、運動、重い物を持ち上げるなど、骨盤底に「腹圧」という負荷がかかったときに尿が漏れるタイプです。
- 漏れ方は数滴のこともあれば、量が多くなることもあります。
リスク因子
出産経験のある女性に多いとされますが、出産歴がなくても起こり得ます。挙げられた主な因子は次のとおりです。
- 妊娠・出産
- 肥満
- 喫煙
- 加齢
- 家族歴
- 閉経(ほかのタイプの尿失禁と同様に、SUIの一因とされています)
年代とSUI
- SUIは、切迫性尿失禁(尿意切迫型)よりも、比較的若い世代から見られることがあるとされます。
- 30〜50代の女性にしばしばみられ、初産後に始まる例もあれば、喫煙による慢性的な咳や肥満が関与する例もあります。
- 閉経期にかけてSUIの頻度は上がる傾向があると説明されています。
まず取り組めること:骨盤底筋トレーニング
- SUIへの初期対応として、骨盤底筋トレーニング(いわゆる「ケーゲル体操」)が推奨されることが多いとされています。
- 尿道(尿の通り道)を支える骨盤底筋の「力を入れて締める」感覚を養います。排尿を我慢するときのように骨盤底を締めるイメージです。
- オンライン情報やスマートフォン向けのトレーニング用アプリ、骨盤底理学療法士(専門の理学療法士)による指導など、学ぶ手段はいくつかあります。
- 自分に合う方法や正しいやり方については、医療専門職に相談するのがおすすめです。
受診のハードルを下げる工夫
尿の悩みは打ち明けにくいテーマです。恥ずかしさやためらいから受診が遅れることも少なくありません。次の工夫が紹介されました。
- 話しやすい医療者(性別など含め相性の良い相手)を探す
- 受診時に、信頼できる家族・パートナー・友人に同席してもらう
- 相談したいことをメモに書き出して持参する(口頭で切り出す負担を減らせます)
排尿日誌(Bladder Diary)をつけてみる
- 排尿日誌は、症状を客観的に把握し、診療の限られた時間で状況を伝える助けになります。
- 1〜3日程度、日常に近い過ごし方の期間を選んで、次のような項目を記録します。
- 飲んだものの種類と量
- 排尿した回数と時間
- 漏れが起きた回数や状況、強い尿意があった時刻 など
- 診療科や理学療法士によって日誌の様式は異なりますが、「どれくらい飲み、どれくらい出て、どんな症状がいつ起きたか」を対応づけて理解するのが目的です。
- 気になる症状がある場合は、記録を持参して医療機関に相談してください。
どこに相談すればよいか(米国の例)
- まずはプライマリケアや婦人科で相談し、必要に応じて専門科に紹介されるのが一般的とされています。
- 米国では、次のような専門職がSUIの診療に関わります。
- 泌尿器科医、ウロギネコロジー(婦人泌尿器)専門医
- 女性骨盤医学・再建外科(FPMRS)を専門とする医師
- 骨盤底理学療法士(骨盤底に特化した追加研修を受けた理学療法士)
- 受診先の選択は地域や制度で異なります。日本では対応する診療科(泌尿器科・婦人科・女性泌尿器外来など)にご相談ください。
手術への不安と「メッシュ」の話(米国の状況)
- 米国では、膣から留置する「骨盤臓器脱」の一部のメッシュ製品がFDAにより市場から撤回された経緯があります(広告やCMで目にする情報の多くはこの件に関連)。これはSUIの治療とは別の話題です。
- SUIに対しては、尿道の中部を支える「ミッドウレトラルスリング(外科用メッシュを細い帯状にして尿道のハンモックのように支える手術)」が、米国の領域では標準的治療(gold standard)の一つと説明されています。20〜30年にわたり安全性・有用性に関する報告が蓄積しているとされています。
- ただし、手術はあくまで選択肢の一つです。手術を望まない、あるいは準備が整わない場合に検討される保存的な方法もあります。
- 骨盤底筋トレーニング(自己実施または骨盤底理学療法士の指導)
- 膣内に装着して尿道を物理的に支える挿入デバイス(必要な場面だけ使うこともあるとされています。例:ランニング、トランポリンなど特定の運動時)
- 尿道内の「バルキング(充填)注入」:尿道内腔を部分的に膨らませて抵抗をつくる注入療法。米国では2020年に新しい材料が登場し、欧州では以前から用いられてきたものがあると紹介されています。外来で行われることが多いとされます。
- どの方法が適しているかは症状や体質、希望によって異なります。日本での適応や承認状況は米国と異なる場合があります。具体的な治療は医療機関でご相談ください。
生活の工夫と心構え
- 自分の症状が「いつ・どの場面で・どの程度」起きるかを理解することが、対処法を選ぶうえで役立つとされています。
- 喫煙を避ける、適度に運動する、過度な体重増加を防ぐなど、骨盤底への負担を減らす生活は、漏れの予防・軽減につながる可能性があります。
- ただし、どの対処法も万人に同じ結果になるとは限りません。気になる症状が続く場合や生活に支障がある場合は、早めに医療機関にご相談ください。
参考リソース(英語)
- Stress Urinary Incontinence
- Free Downloadable Bladder Diary
- Pelvic Floor Health Center
- Surgery For SUI
※米国NAFCの番組内では、医師検索ツール(Doctor Finder)などの案内もありました。日本国内での受診先については、地域の医療機関にお問い合わせください。
※番組末尾には、米国で認可された骨盤底筋トレーニング機器に関する広告が含まれていましたが、本記事では製品名や宣伝的表現の翻訳は割愛します。